急性気道感染症と抗菌薬:推奨されるコミュニケーション方法とは?

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 言うまでもなく、ウイルス性急性気道感染症(感冒・急性鼻副鼻腔炎・急性咽頭炎・急性気管支炎)に対する抗菌薬処方は不適切であり、有害事象・耐性菌増加・医療コストなどのマイナス面が潜在的な利益を上回る。
 おそらく多くの(ほとんどの?)医師がそのことを理解していながら、実際には外来で「風邪に抗菌薬」が処方され続けるのには、①受診してきた患者の期待に応えたい、②忙しい外来の途中で丁寧な説明をしていられない、さっさと処方したほうが早い、といった理由があるかもしれない。

抗菌薬を処方しても患者満足度は向上しない

 しかし、急性気道感染症に抗菌薬を処方しても、

  • 診療時間はほとんど早まらない (Clin Ther. Sep 2003;25(9):2419-30.)
  • 患者満足度は上がらない (Open Forum Infect Dis. Jun 2020;7(6):ofaa214.)

ことが分かっている。

 むしろ患者満足度の本質的な決定因子とは、(耳の痛い話だが)診療した医師とのコミュニケーションである。急性気道感染症における患者コミュニケーションスキルはトレーニングを通じて磨くことができ、診療内容と患者満足度を改善するのに役立つ。米国CDCの外来抗菌薬適正使用トレーニングにも応用されているのが、DART (Dialogue Around Respiratory Illness Treatment) というトレーニング・モジュールである。以下に、DARTで推奨されている患者説明の流れを紹介する。

「風邪と抗菌薬」推奨される患者説明の方法とは?

 最初に、診察所見を振り返る。診断をサポートする陽性・陰性所見を取り上げることで、安心材料になる。次に、現時点での診断を明確に伝える。その次は、治療方針を話すのだが、要諦は、否定的な推奨と肯定的な推奨を必ずセットにして、この順序で伝えることである。これは、順序を逆にしたり、否定的な推奨(抗菌薬は効かない・要らない)だけを伝えると、不信感や不満のタネになることがわかっているからである。最後に、予測されうる自然経過と、非常事態への対応策をあらかじめ伝えておくこと、である。


表.急性気道感染症の患者説明において推奨されるコミュニケーション

患者説明の流れ具体例
1. 診察所見を振り返るのどが少し赤いですね。しかし細菌感染症ではなさそうです。耳の奥もきれいですし肺の音も正常です。
2. 明確な診断を伝えるウイルス性の咽頭炎、つまりのどの風邪です。
3. 否定的な推奨を伝える(ウイルスが原因である)風邪には抗菌薬は効きません。
4. 肯定的な推奨を伝える痛みを和らげる薬を出しておきますね。部屋を加湿して充分に休養を取ることも回復の助けになりますよ。
5. 予測されうる非常事態への対応策を伝える最初の 2-3 日が症状のピークで、その後1週間くらいかけて徐々に良くなっていきます。もし3日経っても全然良くならないばかりかどんどん悪くなる、水も飲めないほど喉が痛くなってきた、などがあればすぐに受診するか電話してください。

(DARTおよび厚生労働省抗微生物薬適正使用の手引き 第三版を参考に作成)


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